新国立競技場の見積金額はぼったくりなのか!?

出典:日本スポーツ振興センター
昨日海で遊んだ疲れがとれていない。完全なる筋肉痛だ。子供たちと遊びすぎた。ごはんも食べ終わりいつものように作業をすることにした。だが、思うように進まない。体が痛いのと眠気が襲ってくる。
これはもうだめだなと思い、ソファーに横たわる。とても気持ちよい。少しずつソファーに沈んでいく心地よさがたまらない。疲れているからこそ、より感度が高い。このまま横になっていれば、静かに眠りにつけるだろうとそれまでの時間を楽しんでいた。
意識が途切れそうになるハザマでこれは眠れそうだと思った瞬間、妻が「新国立競技場の落選したコンペ作品全部見れるよ!」と言ってきた。僕は、はっと目を覚まし妻の顔を見る。妻はパソコンを前にデスクに座った状態で、その後ろで僕は寝ていた。
僕は「そんなどうでもいいことで・・・」と発すると妻も僕が寝ていたのに気づいたのか、苦笑いしていた。こうして、僕は完全に眠りに付くタイミングを失ったのだ。まさか新国立競技場で僕の安眠を妨げられるとは夢にも思わなかった。
新国立競技場といえば、金がかかりすぎるとバッシングを受けている話題のアレだ。2,520億円だっただろうか。「ひるおび!」で毎日のように話題になっていたが、税金がかかるにしても直接的被害が僕にあるわけでもないので、色々揉めているなと思う程度の関心しかなかった。
しかし、今回思わぬ方向から被害を被ってしまった。そんな小憎たらしい新国立競技場問題の経緯を今回調べてみたので、ここに残す。
国立競技場 デザインコンペ募集
最終的にコンペで受賞したのは、ザハ・ハディッドの作品だが、このコンペ中々おもしろい。さぞ多くの募集があっただろうと思いきや募集自体が狭き門だったようだ。まさに滑稽だ。ちなみに参加条件は以下で応募総数は46件だったそうだ。
- ①次のいずれかの国際的な建築賞の受賞経験を有する者
- 高松宮殿下記念世界文化賞(建築部門)
- プリツカー賞
- RIBA(王立英国建築家協会)ゴールドメダル
- AIA(アメリカ建築家協会)ゴールドメダル
- UIA(国際建築家連合)ゴールドメダル
新国立競技場の施設に要求される機能条件
新国立競技場の施設に要求される機能条件について大きく3つが挙げられていた。1つは規模条件。スポーツ国際大会の開催ができるには8万人以上収容できる会場が必要とのこと。狭い敷地内にうまく収めなければいけないのがポイントだ。
2つ目は重層的なプログラムである。色々な用途で利用できるようにするということだろうか。陸上、サッカー以外にもコンサートなど文化的な用途にも利用できる技術が必須という。
最後は、建設スケジュール。2019年にラグビー・ワールドカップ、2020年に東京オリンピック・パラリンピックがある。それまでに設計から施工まで完遂しうる建築でなければならないとのこと。
条件1と2は新国立競技場の機能的部分なので条件としては当然だが、3は競技場固有の話ではなく別の問題のように感じる。
むしろこれを3つ目の条件に入れるなら、施工金額のマックスも4つ目の条件に入れておけという話だ。もちろん1,2は機能として絶対的条件だが、3,4は要望にすぎない。
現に現時点で、施工の遅れは目に見えているし、金額についても当初の倍以上では、条件もあったものではない。
ザハ・ハディッドの提案が国際コンペで受賞
最終選考11案の中から選ばれたのがザハ・ハディッド氏の作品。なんといっても特徴が「キールアーチ」だ。あの開閉式屋根を支える2本のアーチがかなりの物議をかもしている。
現国立競技場の撤去・取り壊し
2014年の夏から建て替え着工のために、取り壊される。なぜ壊したと異論があるが、後の祭りである。予定としては、2015年秋に着工で、2019年竣工を目指すという。
新国立競技場の設計と施工
基本設計は、日建設計・梓設計・日本設計・アラップ設計が担当とあった。2014年1月23日に基本設計に着手したようだ。施工は、スタンド工区を大成建設が、屋根工区を竹中工務店が行うという。
問題となっている建設費
元々は、1,300億円で見込んでいたものがあれよあれよと2,520億円まで膨らんでびっくりというのがリアルタイムでの話だ。これまでのオリンピックを見てみるとロンドンが約800億、リオが約550億、北京が500億など、どれも1,000億円を切っているような状態での2,520億円なので、批判されて当然といえば当然。
その試算の経緯について、wikipediaにまとめてあったので、抜粋すると以下のようになる。
日付 | 総工費 | 備考 |
---|---|---|
2012/11/15 | 1,300億円 | デザイン決定 |
2013/10/23 | 3,000億円 | |
2013/11/26 | 1,852億円 | 解体費67億円、本体1785億円。床面積を25%削減。 |
2013/12/26 | 1,699億円 | 解体費67億円、本体1395億円、周辺整備費237億円。 |
2014/05/28 | 1,625億円 | 本体整備1388億円、周辺整備237億円。 |
2015/07/07 | 2,520億円 | 屋根950億円、スタンド1570億円。 可動席の費用や計72億円の整備費(歩行者デッキなど)、 五輪後に設置予定の開閉式屋根の費用は含まず。 人工地盤の工費も含まれていなかったともいわれる。 |
ここからは、僕個人の推測である。2012年11月15日にデザイン決定した当初はコンペでの条件でもあった1,300億円で試算されている。そして、2013年10月23日に設計業者の試算で最大3,000億円とある。
この大本の記事によると基本設計の準備を請け負っている業者が総工費を試算したという。試算の算出にも触れており、日産スタジアムの総工費約600億円に開閉式屋根の取り付け代などもろもろを加えて算出したそうだ。つまり積算をしたわけではなく、似たようなスタジアムの実績金額にカスタム機能の金額を合わせた大雑把な金額と言える。
詳細情報がない中での見積算出は極めて当てにならない。住宅やマンションであれば、これまでの実績を平均して坪単価いくらでざっとした金額は算出できるだろうが、この試算は疑問を感じる。
基本設計の準備を請け負っている業者とあるが、設計事務所が見積を算出しているはずがない。自ら色々な業者へ見積をとりその金額を合算させたのであれば、詳細もないのでそれぞれの業者が多く見積もった可能性もある。
逆に施工業者に見積を丸投げしているのであれば、同様に多く見積もっているだろう。どちらにせよ1,000億単位の案件なので、振れ幅はかなりのものだ。なので、まったく当てにならない。
そして、2013年11月26日の1,852億円だ。3,000億円の試算をだしてから1ヶ月しか経っていない。床面積を25%削減したことと内容を見直した結果らしいのだが、これも当てにならない。
とりあえず、半分ぐらいに減らしたテイで世論の批判を免れようとしているように見える。その根拠の1つとして床面積の削減をだしたのではないだろう。
その1ヶ月後の2013年12月26日に発表したのが1,699億円だ。本体金額が400億円削減されている。この時点で、文部科学省と財務省が建て替えの総工費の上限を1,699億円で合意した。どんな魔法を使ったのだろうか。基本設計すら行っていないのだから、まったく信用できない。
翌年の1月にやっと基本設計の着手が始まる。そして2014年5月28日に基本設計を元に算出した金額が1,625億円となる。この金額は消費税5%の時の算出ということだ。どうもこの金額、予算に抑えた感が拭えない。
というのも基本設計の段階だ。図面がどの程度の完成度かは分からないが、詳細図もない段階では金額が増大する可能性もある。下手したら粗概算レベルの図面での金額かもしれない。
粗概算レベルを簡単にいうと、平面図と立面図と断面図・仕上表だけある状態であとは想定で材料を算出してほしいなんてレベルだ。見積を算出するということは、その建物に使用する材料を算出するということである。つまり積算ということだ。
まず、設計の人間は積算を知らない。というより、現場も施工も知らない人間が多い。大手になればなるほど顕著だ。全ての人間がそういうわけではないが、大半の人間はそうだろう。だから、線一本引いてもそれがどのように施工されるとか収まりをどうするかなんて分からないのだ。
そうなると、粗概算レベルの図面では、どのように収まるかとかどのような材料や施工方法でやるかなんて丸投げだ。積算・見積をする人間が持っている知識から必要であろう項目を算出していく。
どうしても分からない部分は一式計上して、その部分の施工業者へ更に丸投げ。結局は概算なんでっていう部分に逃げがあるわけだが、報道されるたびに金額だけがクローズアップされる。
何も知らない人たちから見ると全部が完璧な状態で算出された金額と勘違いしてしまうのだ。担当の官僚はまだしも政治家なんてそのものだ。ろくすっぽ内情も知らないのに、金額に対してあーだこーだと喚く。最近は、関係者それぞれが責任の擦り付け合いをしているが、滑稽で仕方がない。
そして、つい先日発表された2,520億円だ。これは実施設計から算出された金額だ。実施設計なので、意匠の詳細図・構造図・設備図全て整った状態での算出である。しかし、この中には可動席の費用や整備費、五輪後設置予定の開閉式屋根の費用は含まれていない。本体工事だけで言えば、ざっと倍の値段である。
基本設計から増えることはざらにあることだが、中々の金額だ。これほどまで膨れるということは相当、基本設計の図面がひどすぎたのか、ぼったくっているかのどちらかだ。もちろん、積算ミスということもあるが、それでも倍となると疑わずにはいられない。
これも皆が勘違いしていることだが、図面は正しいと思っていないだろうか。設計する人間はきっちり図面を書くのが当然という考え方である。プロなんだから全ての図面で整合性がとれていて当然と思っているのならとんだ思い違いだ。
図面は、間違いだらけという表現が一番正しい。これまで、何千枚何万枚と図面を見てきたが、全て整合性がとれている図面にお目にかかったことは一度もない。大規模な建築物になればなおさらだ。
そして、見積書も然りだ。たとえ同じ単価で算出したとしても十社積算させると必ずばらつきが出てくる。なぜかというと人間がアナログで数量を算出しているからだ。図面にスケールを当てて長さや面積を算出している。補助システムを利用するにしても便器の数がいくつかなど全て人間の手で数えられるのだ。
図面から勝手に算出されるワケではない。近年CADも進み4D・5Dと様々な情報を加えることができるようになったが、積算の分野でいえば、システム化はまだまだだろう。
よって、建築の見積書は信じてはいけない。単純ミスで数量が多かった少なかったなんてことはざらだ。億単位で間違えることもある。施主から見れば、少なく見積もっていれば儲けだが、多く見積もられていたらたまったものではない。
悪徳業者もいるだろうが、意図しない数量ミスで損をしていることは大いにあり得るのだ。もし、家を建てる計画のある方は、お金がかかったとしても図面一式渡して別の業者へ見積してもらうことをオススメする。それなりに知識のある人間が見積書を見るといい業者かどうか簡単に判断できるので、設計事務所や工務店との関係もあるだろうが、そこは割り切って依頼しよう。
ということで、話がずれたが今回についてもこの件が当てはまる。施工はスタンド工区が大成建設、屋根工区が竹中工務店。この2社は設計段階から施工者の立場で、技術提案や施工計画の検討、概算工事費の算出などを行う技術協力業務を行っている。この時点で施工業者は決まっていたのだろう。
この2社が算出した金額がベースとなり、設計変更や施工方法の変更により金額が変動していく。つまりはその見積金額の正当性が不透明ということだ。設計事務所も見積金額で設計料が変わってくるので、合見積もりをとるところもあるだろうが、率先して見積書の正当性をチェックするところは少ないのではないだろうか。
そうなると、施工業者の言い値となってしまう。まさに、ぼったくっていたとしても分からないということだ。今回、そうであるかは定かではないがダークホースがいる。日建設計だ。ここは蛇のようにしつこい。どこかの業者に算出させた数量と突合せをよくやるところだ。
お客様のために!という素晴らしい精神ならいいのだが、担当によってはろくすっぽ知識もないくせに無理難題を平気でいってくる。ここがなんだかんだと難癖つけている可能性も十分にあり得る。といっても僕の推測なので、この域から抜け出せない。
技術協力といっても実施設計からで基本設計段階では一切関わっていない可能性もある。そうなると実際に施工する人間の目から見て基本設計が絵に描いた餅だったのかもしれない。これだと逆に設計チームの責任追及に繋がる。こうなると堂々巡りに突入する。
ということで、聞いてみることにした。
関係筋の話によると・・・
久しぶりに知人に「結局のところこの金額どうなのか」とメールしてみた。するとすぐに返事が返ってきた。メールしたのには、もう1つ理由がある。よくニュースの記事で「関係筋の話によると」という文言がある。これに若干憧れているのだ。ついに使うときがきたのだ。ちなみに関係筋は現場に近い立場の人間である。
関係筋の話によると「実際にあそこまでかからない。絶対に作らなければいけないものだからぼったくっているのだろう。特に某ゼネコンのぼったくりがひどい・・・」とのことだ。
設計との関係を聞いてみるとやはりでてきた日建設計。毎日のように打ち合わせがあるようだ。さすがスネーク!今回は、ザハ氏の「キールアーチ」が大変という見解だが、ゼネコンも概ね同意見のようだ。屋根工事はどこもやりたがらないそうだ。
ここまでざっと調べてみたが、要はこういうことなのだろう。
国:予算1,300億円でいいデザインの競技場を提案してくれない?
設計会社:こんなのどうですか?
国:このデザインがいいね。これを実際に建てるとなるとどれくらいかかる?
設計会社:規模がでかいんで、正確には出せませんが、概算で算出すると多く見積もって3,000億ぐらいになるかもしれないですね。概算なんで、もちろん減る可能性もありますよ。
国:まじ!?ちょっと予算ないんで、ちょっとデザイン変えて下げてくれない?
設計会社:一応下げれるところは下げてがんばってみたんですが、1,852億円です。もうちょいがんばってみて1,699億円ぐらいにはなると思います。ただ、正確な図面もないのでこれ以上増える可能性はあります。これ以上は契約結ばないとこっちも商売なんで・・・
国:じゃあ契約結ぶのでよろしく!上に了承もらわないといけないんで、基本設計段階で一旦見積だしてくださいね。急ぎで頼みますよ。
設計会社:分かりました。ただ、基本設計なんであくまで概算ですよ。正確な数字ではないので、あしからず。
・・・
設計会社:見積でました。1,625億円です。あくまで基本設計の概算なんでお忘れなく。
国:ありがとう!この金額でOKでたよ。それと実際に施工できるかゼネコンとの調整がでてくると思うから協力要請したよ。後は、実施設計を一緒にやってね。最終見積ができたらまた報告よろしく!
施工会社:見積でました。2,520億円です。基本設計内容じゃ難しい部分がかなりあったのでその分増えてしまいました。
国:まじで!やばいって!どういうこと!?
設計会社:だから、基本設計は概算っていったじゃないですか。あの程度の図面では、正しい見積金額なんてでませんよ。でも施工会社さん、ほんとにこんなにするの?
金額だけが一人歩きして、あーだこーだと問題になっているが、こんな話なんだろう。
なんで金額が倍になったんだとあえて理由をつけるなら、基本設計と実施設計での積算・見積の違いもしくはゼネコンのぼったくりといったところだ。設計会社の過失もあり得るが、とりあえず置いておく。
7月21日追記
結局、安倍総理が7月17日に白紙に戻すということで、着工前段階のデザインや設計などの契約約59億円をドブに捨てたなんて記事がでているが、白紙に戻す前にまず第三者による見積金額の正当性をチェックするべきだったな。
見積査定であれば、1,000万もいかなかっただろう。見積査定した金額とかけ離れていれば、ゼネコン相手に交渉することもできたはずなのにもったいない話だ。
7月23日追記
舛添都知事がツイッターで「新国立競技場:政府は、至急、今回の大失策に至る経過を検証し、責任者の処分をすべきである。最大責任者は文科省であり、担当役人の処分は免れない。組織の長にその処分ができないのなら、自らが辞任するしかない。それが大人の世界の常識であり、役人一人の更迭もないのなら、国民は許さない。」とツイートしたようだ。
どうも政治家というのは、責任を取らせたがる。今回の件をやさしい目で見れば、リミットがあっただけで流れとしてはなんら問題はない。実施設計で金額が合わないのであれば、そこから設計変更なり仕様変更をして予算に合うように調整していけばいいだけだ。
着工前に契約で約59億円をドブに捨てたというのも規模が規模なだけにそれぞれの立場を考えると必要なお金だ。設計だけでも4社関わっている。それだけ多くの労力を使わなければできないということだ。
それを見積するとなると更に多くの労力が必要となる。見積書を作成するだけでも1,000万円を超えることもある。施主側からすると見積金額を見て予算オーバーだからやっぱり止めると簡単に言えるが、設計や施工側からすると大赤字だ。そういう意味でも着工前の契約というのは必要なことだ。
- 【デザイン決定時】どんなプロでもデザインだけでは、正しい見積金額をはじき出すことはできない。(デザインコンペで予算1,300億円を与条件としていること自体無理な話)
- 【基本設計時】意匠図だけでは、実際に建てることができるかどうか分からない。
- 【実施設計時】構造計算をし、意匠図・構造図・設備図全てが揃って初めて正しい見積金額が分かる。
- 【施工時】一番大変なのは実際に施工する現場である。契約した金額内で収まらず、赤字になる場合もある。
冒頭でも少し触れたが、経験則からざっくりとした参考金額を提示することもあるが、今回のようなデザインの建築物では参考になるようなデータはないだろうし、そもそも当てにならないだろう。
プロならデザインや基本設計の段階でどれくらいの金額になるか正確に把握しろという時点で無理な話なのだ。舛添都知事もこのクチだろう。